アデル・ファンサ社のアレッポ市での操業が再開されました。


アデル・ファンサ社はアレッポの工場修復を終え、2021年11月より本シーズン本格操業が再開されました。

石鹸工場の前の建物からアレッポのシンボル「アレッポ城」を望む

冬の間しか行われない釜炊き

オリーブとローレルの収穫時期の秋から翌年1月にかけて続きます。

釜炊き

石鹸作りに必要なオリーブオイルとローレルオイルは11月頃採取され、それに合わせて石鹸のクッキングが始まります。シリアの冬は日本と同じくらいの気温で、新鮮なオイルと冬の寒さは石鹸作りにはとても好条件です。

石鹸素地は釜炊きのために苛性ソーダを溶き入れた窯にオリーブオイルを流し込み、それを加熱することで油が石鹸に変わる鹸化を促進していきます。途中ローレルオイルも加えながら攪拌と塩析(水で石鹸素地から余分なアルカリや不純物を取る工程)を行います。石鹸素地が出来上がったら、成型のために石鹸素地が熱いうちに紙を敷き詰めた床に流し込んでいきます。

※よろしければ現在の石鹸作りをご覧ください。

石鹸素地を切り分ける道具“ジョウゼ”

シリアの寒い冬は熱くて柔らかい石鹸を早く冷まし、次の石鹸素地のカット作業などをスムーズに行うことができます。

石鹸素地が冷えて硬くなるとクァブクァーブと呼ばれる板を履き、ジョウゼと呼ばれる歯のついた道具で石鹸素地を切っていきます。真冬の夜中、最も冷え込む時間帯から始められる作業です。

切り分けた石鹸にはブランドと品質を示すスタンプが押され、少しずつ隙間を空けて高く積み上げられます。水分をたくさん含んだ石鹸は空気に晒されてゆっくりと乾いていきます。熟成の始まりです。雨がほとんど降らなくなる4月頃から10月の熱く乾燥したシリアの空気で石鹸はどんどんと乾き熟成していきます。

左 熟成後の石鹸:右 熟成前の石鹸

1月、連日続いた釜炊き作業は終わり、石鹸は長い熟成期間に入ります。

このようにしてアレッポの石鹸は1年以上の長い熟成期間を経て完成していきます。緑色だった石鹸の表面は黄土色に変化してから出荷されていきます。現地ではより年数が経ったものがより高値で取引されます。

アレッポのアデル・ファンサ石鹸工場

350年続いてきたファンサ社の石鹸作り。故アデル・ファンサ氏以前の工場は旧市街の別の場所にありました。石造の工房でとても風情があり、ラクダやロバを運送手段や動力にし動物の皮をドラム缶の代わりに使っていました。しかし70年ほど前から、シリアにもどんどんと近代化の波が押し寄せ、これに対応する形で現在のアデル・ファンサ工場の場所に移り、以後故アデル・ファンサ氏が手塩にかけて育ててきた工場でした。日本の弊社へ石鹸を輸出するようになってからはより高い品質を目指し、次々と新しい試みを続けてきました。陣頭指揮は息子のタラール・ファンサ氏によって受け継がれています。

シリア地図

シリア騒乱

2010年チュニジアから始まったアラブの春は2011年4月シリア南部にも広がり、2012年からシリア北部にあるアレッポ にも拡大しました。7月頃から街の水道、電気などが破壊され、アデル・ファンサ社はクッキングのための材料を確保したものの釜炊きすることが出来ませんでした。

ラタキアでの生産再開

シリア全土で戦闘が起こり特にアレッポは激しい戦闘地になりました。またISをはじめとする武装勢力などが街道を移動するトラックなどを襲い身代金を要求するため、運送も安全に行うことが難しくなっていきます。タラール・ファンサは移転を決意します。そして悩んだ末、シリアの貿易港があるラタキアに引っ越しをします。2014年1月、古い工場を借り、改装して工場を再開。石鹸職人も家族ごとラタキアに仮住まいを設け、移住させました。

ラタキアにあるアデル・ファンサの工場で撮影されたビデオ

ISO9001取得

ラタキアではほとんど戦闘がなく安全に石鹸を製造することができました。不安定な電力供給を補うためにジェネレーターを稼働しました。また2020年には品質管理基準ISO9001を取得いたしました。

大破したアレッポの石鹸工場

2016年アレッポでは爆撃のためアデル氏とタラール氏親子二代で大切にしてきた工場は大破しました。2017年に送られてきた写真には二人が悲嘆する様子が映っています。アデル氏はアレッポを離れることなく2020年9月10日永眠しました。

破壊されたアレッポのアデル・ファンサ社石鹸工場とアデル氏 2017年3月頃

アレッポ工場の再建

タラール氏は2020年よりアレッポの工場再建に着手しはじめます。そして2021年初めに試運転を重ね、今シーズンやっと工場が再稼働したのです。ラタキアに移っていた職人たちもアレッポに戻ってきました。新しい工場はより清潔に、また道具なども一部は木製からステンレス製に変えられました。

再建されたアレッポの石鹸工場 2021年3月

アレッポを含めシリアの状況はまだまだ不安定ですが、石鹸作りは一つの光明です。より高い品質の石鹸を皆様にお届けできるように頑張ってまいります。どうぞよろしくお願いします。

2021年12月アレッポのアデル・ファンサ社石鹸工場にて 足に履いているのは前述の「クァブクァーブ」